2025.12.17
世界的音楽家・坂本龍一の最後の3年半の軌跡を辿ったドキュメンタリー映画『Ryuichi Sakamoto: Diaries』(全国公開中)。この度、小山田圭吾さん(ミュージシャン)と砂原良徳さん(サウンドプロデューサー)をお迎えし、TOHOシネマズ シャンテにてトークイベントを開催しました。当日の模様をレポートとしてお届けします(以下、敬称略)

先日、国際エミー賞を受賞したことでも注目を集めた本作のベースとなったNHKスペシャル「Last Days 坂本龍一 最期の日々」。放送当時に番組を録画していたという二人は、新たな要素を加えて映画となった本作の感想を問われると、小山田は「番組は勇気が出なくてしばらく寝かせていたんですが『やっぱり見よう』と思い立って見ました。この映画はそれがベースになっていますが、色々とお世話になっていた方なので最後の姿が生々しく映像として残っていて辛い気持ちもありました。でも『坂本さんは本当に素敵だな』と最後に思いました」と話し、砂原は「僕も番組は見ていなくて。亡くなったということは知りながらも、メディアの情報を入れないようにしていたんです。僕は小山田くんほどお会いする機会がなかったので、メディアの中のイメージが強いですが、”坂本さんらしさ”というのが最後まであったように感じました」と、本作を鑑賞した率直な想いを語った。

坂本龍一と初めて会ったのは2000年代頭だという小山田。「細野(晴臣)さんと(高橋)幸宏さんが、SKETCH SHOWというバンドをやっていて、僕はサポートメンバーで入っていたんです。アンコールに坂本さんが来られて、すごく久しぶりに3人が一緒に演奏した時に居合わせました。その後もテレビ番組内で坂本さんと一緒に演奏したり、『CHASM』というアルバムに誘ってもらってスタジオでセッションしたり。ツアーも何本か一緒に回らせてもらいましたし、色々なプロジェクトでご一緒させてもらっていました」と当時を振り返る。
進行の佐渡プロデューサーから、「坂本さんはどんな方でしたか?」と質問を投げかけられると、小山田は「皆さんが見た通りの方だと思います(笑)」と即答し、会場を沸かせた。続けて砂原が、「僕はYMOの3人が集まるようになった2002〜2003年くらいから……」と話しだすと、小山田が「あれ?高校生の時じゃなかった?」とカットイン。札幌に住んでいた頃まで遡り、「”シニフェ”という坂本さんが名前をつけたお店があるんです。打ち上げではそこへ必ず行くと言われていたので、コンサートの時に行ってそこでお会いしました!(笑)あと、コンサートの後にすすきのをフラフラしていたら、バスからたくさんの人が降りてきて『これはもしや?』と思ったら坂本さんが最後に陽気に降りてきて…」と10代の砂原にとって強烈な思い出も。さらに「10代の頃は依存症でした。依存症(レベル)のファンです。坂本さんは急に『元気?』とだけメールを送ってくれたり、曲をカバーさせていただいた時も『ちゃんと作ってくれてありがとう』とメールをいただいたりしましたね」と和やかな関係性も明かされた。

今もなお世代を超えて影響を与え続ける坂本龍一。坂本の音楽の魅力について問われると、小山田は「和声(わせい)」に注目。「綺麗で、エレガントですよね」といい、砂原も「次こうなるだろうな、と思ったら違うという裏切りがありますよね。だから聴こうという気持ちが持続するので聴いてしまう」と、その魅力を分析。進行の佐渡プロデューサーから坂本と“音楽談義”をしたことがあるかを問われると、「何度か即興演奏みたいなことはしたし、レコーディングの時は即興した音を坂本さんが持ち帰って編集して使うみたいな形でした。でも、ほぼ言葉はなくて、音楽の話はあまりした記憶がないです。リハーサルの時もほぼ何も言わないんですよ(笑)ある意味任せてくれているということなんですが、具体的に言葉にすることってないんですよね」と小山田。砂原も坂本のラジオに出演した時のことを振り返り、「坂本さんが来るまでは音楽の話をしていた気がするんですが、坂本さんが来てからは音楽の話はしてませんでした(笑)」と笑い混じりに述懐した。

皿を割る音を収録したりと、坂本の音楽や音への追求を感じられるシーンもふんだんに登場する本作。小山田は「2000年以降の坂本さんって本当にやりたいことをやるって決めたんだな、最後は自分のやりたいことだけになっていっているんだなと」と、映画の中に収められている坂本の姿を見て感じたという。砂原は「寒いところへ行って氷の音を録ったり、すごくいい音色だと思うと同時に『贅沢なことをやっているなぁ』と思いますね。皿を割るにしても、どういう皿をどう割るかで変わってくるんですが、それはその人の選択で、いい音を出しているなと。録音するという行為は、全てを記録することはできなくて、一部分を切り取って皆さんに聴かせているわけですよね。その場でやっている本人はもうライブのように盛り上がるんじゃないでしょうか」とその探究心に共感したと話す。

坂本が日記に綴った言葉が軸になっている本作。小山田は「坂本さんは(日記を)見られることを意識していたのでは?と思いますね。個人的なものではなくて、残したい何かだったのかなと」と想像し、自信が同じ立場になったことを考えると「ここまで全てを見せるというのは難しいというか、自分の場合は無理だなって思います」と吐露。
砂原は「死ぬってことは悲しいことでもありますけど、僕らもみんな死ぬわけで。そう考えると、死に方としてはかっこいいというか、綺麗な感じがすごくします。常に自分の死と向き合って、日々過ごさなければならない。記録に残していくっていうのはなかなかできることじゃないですよね。精神的に強くないとできることじゃないなって思います」と坂本の姿勢について語った。その後も、坂本へのリスペクトが感じられる言葉が随所に散りばめられ、終始、会場を柔らかく包み込む和やかなトークイベントとなった。
映画『Ryuichi Sakamoto: Diaries』TOHOシネマズ シャンテほか全国公開中