Ryuichi Sakamoto: Diaries

2025.11.30

レポート

『Ryuichi Sakamoto: Diaries』田中泯さん、大森監督登壇_公開記念舞台挨拶レポート

世界的音楽家・坂本龍一の最後の3年半の軌跡を辿ったドキュメンタリー映画『Ryuichi Sakamoto: Diaries』(監督:大森健生)映画の公開を記念して、朗読を務めた田中泯さん、大森健生さん(監督)登壇による公開記念舞台挨拶を開催しました。当日の模様をレポートとしてお届けします(以下、敬称略)

「国際エミー賞」授賞式に参加。監督が明かす現地の反応

上映後の余韻に包まれている会場に向けて、「なるべく皆さんのこの余韻と時間を邪魔しないように、短い時間ですがよろしくお願いします」と挨拶した大森監督。
続けて、冒頭では本作のベースとなったNHKスペシャル「Last Days 坂本龍一 最期の日々」が、世界の優れたテレビ番組を表彰する国際コンクールである「国際エミー賞」を受賞したことを受け、二人に花束が贈呈。授賞式が行われたニューヨークに行っていたという大森監督は「坂本さんは、“世界の坂本さん”と語られているかと思いますが、本当にその通りなんだなと実感する授賞式でした。生き方が音楽以上に人の心を掴み、震わせ、動かしていたんだなと感じました」と現地での作品の反応を振り返る。

また生前、坂本と交流があった田中は「ちょうどYMOが世界を回り始めたのと同じくらいの時期に僕も世界中を回り始め、それから2000年代に入るまで毎年8カ月ぐらいは日本以外で踊っていましたが、どこへ行ってもRyuichi Sakamotoの名前は知られていました。本当に驚くべき浸透力というか、音楽の力だと思います。坂本さんの名前は、クラシックの作曲家と同じくらいに、若い人からもずっと知られているんだと思います」と、国も世代も超えて影響を与えてきた坂本について語った。

監督「坂本龍一さんの日記を読むという難しい仕事を担えるのは田中泯さんしかいない」。田中泯「彼との会話はこれからもずっと続ける」

大森監督はなぜ田中に朗読を依頼したのだろうか。その問いかけに「坂本さんと深い関係にあった人たちと議論を重ねる中で、坂本さんの日記を読むという非常に難しい仕事を担えるのは田中泯さんしかいない。ということでオファーさせていただき、ご快諾いただいた」と振り返る。
一方、そのオファーを受けた田中は、「文学者や詩人が心境を綴った日記のようなのを僕も随分読んできました。坂本さんの日記は、日記を読む人や世界に対してペンを走らせていた気がしてしょうがない。その文字を、今生きている私が自分の感覚で読む、上手に聞かせようと考えるのは違うなと思いました」と振り返り、「僕はダンサーなので、自分の体で踊って口に出していく。それが映画を観る人に声として伝わっていくということに、猛烈なプレッシャーを感じました」と、依頼を受けた時の心境を明かした。

また、日記で綴られている言葉について、「坂本さんが書いた“みかん”と、自分が捉える “みかん”とではどのぐらい違うのか、自信がなかったんです。でも、いろんな環境を空想しながら自分の口から言葉を出してみました。自分の踊りを総動員して言葉を捉えていった気がしています。大変な出来事でした」と振り返った。

続けて、親交のあった坂本と生前交わした会話に言及。「自分たちが今、この世に生きているということから始まって、人間って一体何をしていくんだろうか、これからどうしていくんだろうとか、宇宙的世間話というか。“生き物”としての人間の未来ややってきたこと…そんな話ばかり何時間もしていました」と述懐。さらに、「会話の続きは、彼が死んだから終わりというものではなく、これからずっと続けるものなんだと思います。それは僕の癖で、先輩たち、大好きだった人たち、残念ながら若くして死んでしまった人たちとの会話をずっと続けているつもりで生きています。それは恥ずかしい思いをしたくないという気持ちもあるし、見ていてほしいという気持ちもある。一緒に戦わなきゃいけないということも。特に坂本さんの場合はそれが強くあります」とその思いをせつせつと語った。

田中泯「僕たちはたった一回の人生を送っている。これが一番大切なこと」大森監督「作品が、深く、静かに浸透してほしい」

最後の瞬間まで創作に取り組んできた坂本について「坂本さんは選んだわけでもないのに病気になりました。そしてその意味においては、わたしはまだ生きている。皆さんも生きている。でも、いつ死ぬかわからない。分かっている人もいるかもしれないが、みんな違うんです」と語った田中。その上で坂本の日記には「死ぬことだけに囚われていたわけではない。全くの孤独で文字を書いてはいません。絶望も書いてはいません。『悔しい』と言っているんですから」と続け、観客に向けて「皆さん暗くなる必要はないです。僕たちは死ぬんです、間違いなく。そして間違いなくたった一回の人生を送っています。これが一番大切なことなんじゃないですか」と強調した。

そしてあらためて坂本の魅力について問われた田中は「それを言葉で言わなきゃいけないんですか?」と笑いながらも、「大人だったら長いものには巻かれろで、それでいいじゃないかとか言うのを、絶対に『うん』と言わないで生き続けた人じゃないですか。そうい った意味では “ガキンチョ坂本龍一”というか。皆さんもたぶん彼に共感するのは、そういうところなんだと思うんです。そういう人に会いたくて、僕は生きています。たぶん皆さんもそれに近い感覚をお持ちだから、今日足を運んでいるんじゃないでしょうか?」とかみ締めるように語る。

そして最後のメッセージを求められた田中は「人間は死んでいった人のことは忘れるようにできているんです。だから墓石とか、お盆とか、銅像を作ったりするわけですが、でもそんなことは忘れましょう。坂本龍一という名前すら忘れてもいいのかもしれません。彼がくれた『刺激』を忘れないようにすれば、それでいいんじゃないでしょうか。ぜひこの映画のこと、誰かに伝えてあげてください。それがたぶん坂本さんへの一番の供養になるのかもしれません」と語りかける。

続く大森監督も「大手を振って『観てね』となかなか言い難い面があるタイプの映画ではありますが、作品が、深く、静かに、じんわりと浸透していくといいなと思っています。できれば身近な親しい人、あわよくばその隣の人まで、多くシェアしてくださるとありがたいなという気持ちでいっぱいです」と呼びかけた。

映画『Ryuichi Sakamoto: Diaries』TOHOシネマズ シャンテほか全国公開中

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